今日から酸と塩基の勉強です。酸は英語でacidといいます。このことばはラテン語のacidus(酸っぱい)に由来するそうです。 ![]() 最初に化学的に定義したのはボイルで,植物性の青色色素(litmus)を赤色に変化させ,多くのものを溶かすことのできるものを酸素いったようです。ラボアジェは,酸はすべて酸素を含むと考えたようです。二酸化炭素,二酸化窒素,二酸化硫黄の水溶液は,確かに酸性です。しかし,金属の酸化物である酸化ナトリウムや酸化カルシウムの水溶液は塩基性を示しますね。ラボアジェも間違えることがあったのです。ドイツのリービッヒ(冷却管に名前が残っています)は,酸のプロトン説を提唱しました。そして,アレーニウス,ブレンステッド,ローリーと続くのです。アレーニウスは1903年に,ファントホッフ,フィッシャーについで3人目のノーベル化学賞を受賞しています。 アレーニウスはスウェーデンの化学者で,1887年に電離説を発表しています。酸・塩基の定義は1884年に発表しています。 塩基とアルカリは意味が違うので注意しましょう。水溶性の塩基のことを,特にアルカリとよんでいます。中学校では,すべて水溶性の塩基だったですね。 今日の学習内容は,次の通りです。 (1)アレーニウスの酸・塩基 (2)ブレンステッド・ローリーの酸・塩基 (3)酸・塩基の強さ 下の電離の式で,⇔の記号を使っているものがありますが,これは反応がどちらにも進むことを意味しています。教科書では→と←を上下に重ねた記号ですが,このページではその記号が使えませんので,代わりに⇔で示します。 ![]() |
14 酸と塩基 (1) アレーニウスの酸・塩基 酸(acid)→水溶液中で電離して水素イオンを生じるような物質 一般式: HA → H+ + A− 塩酸: HCl → H+ + Cl− 硫酸: H2SO4 → H+ + HSO4− HSO4− → H+ + SO42− 酢酸: CH3COOH ⇔ H+ + CH3COO− 塩基(base)→水溶液中で電離して水酸化物イオンを放出する物質 一般式: BOH → B+ + OH− 水酸化ナトリウム: NaOH → Na+ + OH− 水酸化カルシウム:Ca(OH)2 → Ca2+ + 2OH− アンモニア: NH3 + H2O ⇔ NH4+ + OH− 水溶性の塩基=アルカリ |
デンマークのブレンステッドとイギリスのローリーは,1923年にそれぞれ独自に定義しています。このように,二人の化学者が同時に同じ定義を発表することは,ひじょうに珍しいことです。この定義の特徴は,同じ物質でも,相手によって酸・塩基がわかるということです。例えば,水は塩酸に対しては塩基であるけれども,アンモニアに対しては酸です。ですから,ブレンステッド・ローリーの定義では,〜として作用する,〜としてはたらくというような表現になります。 なお,水溶液中の水素イオンは,水分子の酸素原子の間を急速に移動し,個々のオキソニウムイオンH3O+の寿命は,約10−13秒程度であるといわれています。はかない命ですね。 ![]() |
(2) ブレンステッド・ローリーの酸・塩基 酸(acid)→プロトン(proton=H+)供与体 proton donner 塩基(base)→プロトン(proton=H+)受容体 proton accepter 一般式: HA + H2O ⇔ H3O+ + A− acid base acid base HCl + NH3 → NH4Cl acid base HCl + H2O → H3O+ + Cl− acid base H2O + NH3 ⇔ NH4+ + OH− acid base acid base |
塩酸や硫酸というと,何となく怖い感じがします。それに対して,酢酸は,それほど怖い感じがしませんね。ところで,酸や塩基の強さとは何でしょう。電離度が1に近い酸や塩基を,強酸・強塩基とよんでいます。それに対して,電離度が小さい酸や塩基を,弱酸・弱塩基とよんでいます。 ![]() 酸の共通の性質は水素イオンで,塩基の共通の性質は水酸化物イオンでしたね。ですから,酸としてのはたらきの強い水溶液には水素イオンが多く含まれており,塩基としてのはたらきの強い水溶液には水酸化物イオンが多く含まれていると考えることができます。 酸や塩基のような電解質が水に溶けたとき,溶けた電解質の量に対する電離した電解質の量の比を電離度といいます。25℃で0.10mol/l の塩酸の電離度(記号でαを使う)は0.94です。したがって,今1l の水溶液を考えたとき,塩化水素分子がもともと0.10molあって,その0.10molの分子のうち94%が電離していることになりますから,水素イオンは0.094mol,塩化物イオンも0.094molということになりますね。では,塩化水素分子は何mol残っているのでしょうか。0.10−0.094=0.006〔mol〕ですね。 酢酸水溶液では,少しようすが違います。0.10mol/l CH3COOH の電離度α=0.016です。ですから,これも1l の水溶液を考えたとき,酢酸分子のうち1.6%だけが電離していることになります。したがって,水素イオンが0.0016mol,酢酸イオンも0.0016molです。そして,電離せずに残っている酢酸分子は0.0984molあることになります。 ![]() すなわち,同じ濃度の塩酸と酢酸を比べると,水素イオンの濃度が塩酸では酢酸のおおよそ60倍存在していることになります。水素イオンが多いほど酸としてのはたらきが強くなることはわかりますね。 |
(3) 酸・塩基の強さ 電離度→酸や塩基のような電解質が水に溶けたとき,溶けた電解質の量に対する電離した電解質の量の比 電離した電解質の量 電離度= ―――――――――― 溶けた電解質全体の量 1. 25℃ 0.10mol/l HCl の電離度α=0.94 HCl → H+ + Cl− 電離前 0.10mol/l 0mol/l 0mol/l 電離後 0.006mol/l 0.094mol/l 0.094mol/l 2. 25℃ 0.10mol/l CH3COOH の電離度α=0.016 CH3COOH ⇔ H+ + CH3COO− 電離前 0.10mol/l 0mol/l 0mol/l 電離後 0.0984mol/l 0.0016mol/l 0.0016mol/l 電離度が1に近い酸または塩基→強酸,強塩基 (例) HCl,H2SO4,HNO3,NaOH,KOH,Ca(OH)2 電離度が小さい酸または塩基→弱酸,弱塩基 (例) CH3COOH,NH3 |
酸や塩基の強さは,電離度の大小で議論できますが,同一物質であっても濃度によって異なり,やや不便さがあります。本来は,酸や塩基の電離定数の大小で議論されますが,電離定数は化学IIの内容です。ですから,不正確さを残しますが,ここでは扱わないことにします。小学校で初めて酸やアルカリを学習し,中学でも酸やアルカリ,中和を学習しています。しかし,酸や塩基の正体は,今回の学習によって初めて明らかになりました。生活に関係が深く,また,化学でも重要な内容です。もうしばらく,酸や塩基の学習を続けていくことにしましょう。 それでは,今日の学習内容の確認です。 1.水素イオンは,水溶液中で水分子と結びついた状態で存在します。このイオンを何といいますか?→オキソニウムイオン 2.水素イオンや水酸化物イオンによる酸や塩基の定義を提唱したのは誰ですか?→アレーニウス 3.水素イオンの授受による酸や塩基の定義を提唱したのは誰ですか?→ブレンステッドとローリー 4.電解質が水に溶けたとき,溶けている電解質の物質量に対する,電解した電解質の物質量の比を何といいますか?→電離度 5.強酸や強塩基とは,どのような酸や塩基ですか?→電離度が1に近い酸や塩基 |