金属元素は大きく2つに分類することができます。すなわち,典型元素と遷移元素です。今まで学習した1族と2族元素,そして両性元素はいずれも典型元素です。典型元素は,元素の周期律を特によく示すので,同族元素ごとに分類して学習することが効果的です。ところが,典型元素以外の遷移元素は,周期律があまりはっきりしません。また,最外殻の電子数は,一般に1〜2です。今日は遷移元素について,特に鉄について勉強することにしましょう。 ![]() 今日の学習内容は,次の通りです。 (1)遷移元素の単体 (2)遷移元素の化合物 (3)鉄の単体 (4)鉄の化合物 最初は,遷移元素の単体からです。 |
18 遷移元素と鉄 (1) 遷移元素の単体 元素の周期律がはっきりしない 周期表の中央部に集まっている すべて金属→融点・沸点が高い,硬い,密度が大きい |
複数の酸化数をとることが遷移元素の特徴です。そして,酸化数の高い化合物は酸化剤としてはたらきます。代表的な酸化剤に,過マンガン酸カリウムKMnO4と二クロム酸カリウムK2Cr2O7がありますね。過マンガン酸カリウムKMnO4のマンガン原子の酸化数は+7です。酸化剤としてはたらくと,マンガン原子の酸化数は+2になります。 二クロム酸カリウムK2Cr2O7のクロム原子の酸化数は+6です。酸化剤としてはたらくと,クロム原子の酸化数は+3になります。 また,遷移元素の化合物には有色のものが多いです。 ![]() 錯イオンとは,金属元素の陽イオンに数個の分子やイオンが配位結合したものです。今までに出てきた錯イオンは,テトラヒドロキソアルミン酸イオン[Al(OH)4]−,テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオン[Zn(OH)4]2−,テトラアンミン亜鉛(II)イオン[Zn(NH3)4]2+などです。テトラtetraとはギリシャ語の数詞で4を意味します。したがって,テトラヒドロキソとは,水酸化物イオンが4個という意味ですね。この4個の水酸化物イオンが,アルミニウムイオンに配位したものがテトラヒドロキソアルミン酸イオンです。化合物命名法によると,錯陰イオンでは,元素名の語尾に「〜酸」をつけると決められています。 |
(2) 遷移元素の化合物 複数の酸化数をとる (例) Fe2+とFe3+ Cu+とCu2+ 酸化数の高い化合物は酸化剤としてはたらく (例) KMnO4 : MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O 酸化数 +7 → +2 K2Cr2O7 : Cr2O72− + 14H+ + 6e− → 2Cr3+ + 7H2O 酸化数 +6 → +3 有色のものが多い 錯イオンをつくるものが多い |
鉄と人類の関わりは古くからあります。司馬遼太郎の「この国のかたち五」p.73〜106には,日本のたたら製鉄についてかかれています。どうして山陰地方に鉄文化が発生したか,興味深く書かれています。たとえば,「日本列島はモンスーン地帯にあるために木々が水をふくんだスポンジのようで,中国山脈の山々を順次伐採して三十年でもとの山にもどると,すでにナラやクヌギが成長しているというのである。師匠格の古代朝鮮の場合,気候や地質のせいでそうはいかず,乱伐されてやがて多くが禿山になった。ともかくも日本では樹木の再生力が高かったということが,その後の日本史の展開の基礎的なものになった。」当時は砂鉄を木炭で還元したため,多量の樹木を必要としたようです。![]() 現在の製鉄は,赤鉄鋼や磁鉄鋼を原料とし,溶鉱炉中で高温のコークスから発生する一酸化炭素で還元して製造しています。 ![]() |
(3) 鉄の単体 Fe iron ← 鉱石aes,かたいfirmus(ラテン語) 酸化数が+2,+3の化合物 <製法> Fe2O3 + 3CO → 2Fe + 3CO2 溶鉱炉で得られる鉄→銑鉄 銑鉄を処理してCの割合を0.02〜2%→鋼 <酸との反応> 濃硝酸には溶けない→不動態 他にAlとNiなど 他の酸には溶ける Fe + H2SO4 → FeSO4 + H2 淡緑色溶液 鉄(II)イオンは酸化されやすい 4Fe2+ + 4H+ + O2 → 4Fe3+ + 2H2O 黄色味を帯びる |
ヘキサhexaはギリシャ語の数詞で6を意味します。したがって,ヘキサシアノは6個のシアン化物イオンCN−が鉄イオンに配位したものです。鉄(II)イオンに6個のシアン化物イオンが配位すると,+2+(−1)×6=−4になりますね。したがって,ヘキサシアノ鉄(II)酸イオンのイオン式は[Fe(CN)6]4−となり,カリウムイオンK+4個と化合物をつくります。だから,化学式はK4[Fe(CN)6]となります。 一方,鉄(III)イオンに6個のシアン化物イオンが配位すると,+3+(−1)×6=−3になりますね。したがって,ヘキサシアノ鉄(III)酸イオンのイオン式は[Fe(CN)6]3−となり,カリウムイオンK+3個と化合物をつくります。だから,化学式はK3[Fe(CN)6]となるのです。 ![]() 鉄イオンと, ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムやヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムの反応はややこしいですね。少し整理をしておきましょう。 Fe2+とK4[Fe(CN)6]では青白色沈殿です。K4[Fe(CN)6]に含まれているのは鉄(II)イオンFe2+です。したがって,できた沈殿には鉄(II)イオンFe2+しかないことになります。 Fe2+とK3[Fe(CN)6]では濃青色沈殿です。K3[Fe(CN)6]に含まれているのは鉄(III)Fe3+イオンです。したがって,できた沈殿には鉄(II)イオンFe2+と鉄(III)イオンFe3+の両方が含まれていることになります。 Fe3+とK4[Fe(CN)6]でも濃青色沈殿です。K4[Fe(CN)6]に含まれているのは鉄(II)イオンFe2+です。したがって,できた沈殿には鉄(II)イオンFe2+と鉄(III)イオンFe3+の両方が含まれていることになります。 Fe3+とK3[Fe(CN)6]では褐色溶液です。K3[Fe(CN)6]に含まれているのは鉄(III)イオンFe3+です。したがって,できた溶液には鉄(III)イオンFe3+しかないことになります。 |
(4) 鉄の化合物 <酸化数+2> 鉄(II)イオン 淡緑色 酸化鉄(II)FeO 黒色 水酸化鉄(II)Fe(OH)2 緑白色 硫酸鉄(II)七水和物FeSO4・7H2O 青緑 ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム三水和物K4[Fe(CN)6]・3H2O 黄色 <酸化数+3> 鉄(III)イオン 黄褐色 酸化鉄(III)Fe2O3 赤褐色 水酸化鉄(III)Fe(OH)3 赤褐色 塩化鉄(III)六水和物FeCl3・6H2O 黄褐色 ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムK3[Fe(CN)6] 赤色(水溶液は黄褐色) <酸化数+2,+3> 四酸化三鉄Fe3O4 黒色 ターンブルー青 濃青色 紺青 濃青色 (ターンブルー青と紺青は同じ物質) |
複数の酸化数をとる,だから化学は嫌なんだ,といわないで下さい。だから,化学はおもしろいのです。身近な鉄にもいろいろ秘密が隠されていたようです。それを,一つ一つ解明していくのが化学です。少しずつですが,鉄がさらに身近になったような気がしませんか。 ![]() 次回は,これも身近な金属である銅について調べましょう。 今日の学習内容の確認です。 1.遷移元素は,同一元素でも複数の酸化数をとります。鉄の酸化数はいくらですか?→+2と+3 2.遷移元素の酸化数の高い化合物は,酸化力が強いです。代表的な酸化剤は何ですか?→過マンガン酸カリウム,二クロム酸カリウム 3.遷移元素の化合物やイオンには,有色のものが多いです。水溶液中のMn2+は何色ですか?→淡赤色 4.鉄は赤鉄鉱や磁鉄鉱を,溶鉱炉中で還元して鉄の単体を製造します。還元剤は何ですか?→一酸化炭素 5.水溶液中の2価の鉄イオンは何色ですか?→淡緑色 6.2価の鉄イオンにヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム水溶液を加えると,何色の沈殿を生じますか?→濃青色 7.水溶液中の3価の鉄イオンは何色ですか?→黄褐色 8.3価の鉄イオンにヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液を加えると,何色の沈殿を生じますか?→濃青色 |